2021-10-08

いまさらながらAndroidのAutofill Frameworkの困った話

AndroidのAutofillというのは、カスタムコントロールを使わないアプリにとっては実装は難しくはないのだが、カスタムビューを実装しているアプリでは、自分でいろいろな情報を提供しないといけない。実際には、自動入力用にアプリを最適化するに書かれているように、システムがAutofill用の情報を要求してきたら提供する、フォーカスの状態をシステムに通知するなどを追加実装する必要がある。

全部のアプリケーションでそのような実装しているとは限らないので、実装していないような昔のアプリケーション用にAndroidはおせっかいな機能を追加している。互換モードだ。これはアクセシビリティの実装を用いたautofillのエミュレーションを提供するもので、カスタムビューがアクセシビリティ機能の実装をしている場合は、それを利用してAutofill情報を設定する。そもそもアクセシビリティの実装しててAutofillの実装しないアプリがあるのかと問い詰めたいところではあるが。

この互換モードというのは自動的に切り替わるわけではなくて、Autofillサービス側で事前に設定をする。だから例えばアプリがAutofillの実装を入れたとしても、アプリ側からこの互換モードを無効にする方法は残念ながらない。この互換モードが動作してしまうと、アクセシビリティノードの走査が走ってしまうため、当然ながらパフォーマンス問題を引き起こす。アクセシビリティノードの走査はandroid.view.Viewの実装内で行われているから、該当コードを実行しないようにすれば、アクセシビリティノードの走査が実行されなくなるので、ある程度は回避可能ではある。残念ながらある程度ね。

この互換モードで実行しているかどうかは、こんな感じで調べられると思う。

public boolean isCompatibilityMode(Context context) {
  try {
    final AccessibilityManager manager =
      (AccessibilityManager) context.getSystemService(
                               Context.ACCESSIBILITY_SERVICE);
    if (manager == null) {
      return false;
    }
    final List<AccessibilityServiceInfo> serviceInfoList =
      manager.getEnabledAccessibilityServiceList(0);
    if (serviceInfoList == null) {
      return false;
    }
    for (final AccessibilityServiceInfo info : serviceInfoList) {
      if (info.getId().equals(
        "android/com.android.server.autofill.AutofillCompatAccessibilityService"
      )) {
        return true;
      }
    }
  } catch (final Exception e) {
  }
  return false;
}

アクセシビリティノードを走査させないようにしたとしても、互換モードは引き続きおせっかいなコードを実行する。この互換モードが動作する際には、CompatibilityBridgeと呼ばれるものがアクセシビリティイベントをウォッチするようになる (これについては無効にする方法はない)。そのためアクセシビリティイベントを発火させるとそれに応じて勝手にAutofillの互換コードが実行されてしまう。例えばAccessibilityEvent.TYPE_VIEW_FOCUSEDのイベントを受け取ると、AutofillManager.notifyViewEnteredを呼び指したりする。そのため内部でAutofillフォーカスがアクセシビリティノード上に移動する。たとえアプリケーションがAutofill情報を提供してたとしてもだ。AndroidのAutofillはフォーカスが移った際にAutofill用のリクエストをAutofillサービスに渡すので、互換モードでかつ、もしアプリがAutofillの実装をしてた場合、2度リクエストが飛ぶという困ったことになってる。

今どきのWebブラウザというにはOSのAPIはUI Processで実行される。Webコンテンツ内のアクセシビリティ情報をコンテンツのロード時にContent Processで集められ、集まった後UI Processへ送られる。アクセシビリティ情報の収集というのは非常に重い処理なので、UI Processへ送られるのは、ブラウザにとっては相当後になる。なので下手をするとAutofillフォーカスが予期もしてないアクセシビリティノードに奪われた状態でAutofillサービスがAutofillのUIを出したりしようとするので、ブラウザにとっては予期しない動作になりがちになる。例えば、Bug 1693152とかBug 1715549とか。

このように残念な互換モードを使っているAutofillサービスで有名なのはBitwarden。昔Bitwardenの開発者になんで互換モードに設定しているの?って聞いたけどよくわからない答えを返してきたので、今度こそどうにか止めさせるつもり。このような問題に引っかかるのはたぶん自分だけだと思いたいし、Androidはこの互換モードをアプリ側から止める方法を提供してほしかった。

なお、Bitwardenを使ってて、たまにChromeとかでもAutofillが動かないという話があれば、おそらくこのパターンの話。

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